ランチェスターは、2019年下期より「カスタマーサクセス」を新設しました。アプリの導入から運用まで、クライアントに伴走して支援することを目指す部署です。
今回の対談では株式会社顧客時間の風間公太さんをお呼びして、企業のデジタルシフトの進め方や、伴走役であるカスタマーサクセスに求められることなど、お話をうかがっていきました。
2019年下期から、ランチェスターは「カスタマーサクセス」という部署を新設しました。企業のデジタルシフトへのサポートを強化することが目的です。
アプリの導入から運用をアプリのリリース後も継続的にサポートする部署ですが、今はまだ立ち上がったばかり。
そこで今回は、ランチェスターカスタマーサクセス部門の下谷奈桜子が、顧客時間の風間公太さんに「アプリ導入を通じた、企業のデジタルシフト」に欠かせないことを、教えてもらいます。
風間さんは、現在は顧客時間のチーフプランナー・広報統括として、小売店のデジタルマーケティングやオムニチャネルのサポートを行っています。2018年までは良品計画に所属し、無印良品のアプリ「MUJI passport」の導入などを実施。無印良品のSNSを運営する「中の人」でもありました。
企業のデジタルシフトを成功に導くために必要なことは何なのでしょうか。風間さん、教えて下さい!
企業によって異なるデジタルシフトの進み具合
下谷 ランチェスターは、主に小売りのクライアントにアプリの企画・開発から運用支援まで、幅広くサービスを提供しています。クライアントによって、顧客への向き合い方は実に様々です。ただ、やはり顧客のことを知りたいという姿勢を皆さん共通して持たれているように思います。
風間さん(以下敬称略) カスタマージャーニーを顧客時間の視点で考えたときに、「検討」「購入」「使用」の3段階で分けると、今まで多くの企業は「検討」「購入」に注力してきました。広告を出し、新規顧客を獲得し、いかに購入してもらうか、というところです。
しかし、企業と顧客との繋がりが長いのは、購入したあとの「使用」の段階ですよね。今の時代、購買の情報だけを追いかけていても、 顧客像はみえてきません。そういった時に、購入時だけでなく、購入前後の顧客行動を知ることができるアプリなどのデジタルの接点は企業にとってひとつの武器になると思います。
下谷 そうですね。企業へのヒアリングでも、そうしたことは話題になります。事業会社は顧客理解を深め、また、それを顧客体験に還元するためにも、どんな段階を踏んでデジタルシフトを進めればいいのでしょうか?
風間 まずは自分たちの組織がデジタルシフトのどの段階にあるのかを見極めることから始めるのがよいでしょう。例えば無印良品の場合だと、2013年に「MUJI passport」というアプリをリリースしましたが、その前から実験的なものも含め、顧客がオンラインとオフラインを行き来するようなサービスをおこなっていました。
いくつか例を挙げると、ECサイトで全国の店舗の在庫状況を開示したり、ECサイトで注文した商品を顧客が希望する店舗で受け取れるようにしたり。特に、リアル店舗を持つような小売りの場合だと、店舗で働くスタッフの理解を得ることがとても重要です。デジタル施策で店舗スタッフに小さな成功体験を繰り返し実感してもらうことを心がけていました。
下谷 実際に風間さんが企業のデジタルシフトを支援するときは、どうされていますか?
風間 顧客時間では、僕らのこれまでの知見を活かして、デジタルシフトの取り組みに関するロードマップを作っています。デジタル化に向けて、現状でできていること・できていないことをチェックして、「今の段階だったらここから着手しましょう」と提案します。最終的に「クライアントがどうありたいか」というゴールに向かうために必要な事柄を洗い出して行く感じです。
- 企業ごとにデジタルシフトの段階は様々。自社のデジタル化度合の整理が、デジタル推進の第一歩となる
スマホ時代に、小売りのアプリは必須?
下谷 今は、SNS、LINE、アプリなど、デジタルでのタッチポイントって色々ありますが、どれが重要だとお考えですか?
風間 それぞれメリット・デメリットがあると思うのですが、アプリは目指す形の一つだと思います。ただ、いきなりアプリから始めなくても、現状のデジタルシフトの段階を見極めて、別のタッチポイントをしっかり作ってから、その延長線上でアプリを導入するのでも良いと思います。
下谷 アプリを使えば、購買だけでなく、行動データからお客様のことをより深く知ることができますからね。
風間 そうです。でも、獲得したデータをあまり活かせていない企業も多いと感じます。顧客時間の考えとしては、顧客から取得したデータは、顧客のために活かすべきだと思っています。
下谷 顧客体験の向上としてお客様に還元する、といったイメージでしょうか。
風間 はい、取ったデータは、顧客に何らかの形で還すことが理想です。バラマキでは無く、それぞれの顧客のニーズにあったクーポンの提供でも良いし、リアル店舗で、今まで買い物が終わるまでに3工程かかっていたところを、デジタルの力を使って2工程で終わるようにするような利便性の向上でも良いと思います。
下谷 アプリの機能を考える時もそうですが、デジタルを使って何ができるかと検討する際は、「お客様のメリットになるか」という視点は大事ですね。
風間 顧客に対してはもちろん、その効果を店舗スタッフにわかりやすく共有することも大事です。無印良品の場合、アプリを提示される顧客のほうが、客単価が圧倒的に高くなりました。小売業では店舗のKPIの一つは日々の売り上げなので、店舗スタッフはそれを達成することに必死になっています。アプリがそのKPI達成に寄与するということがわかれば、店舗側のモチベーションにもつながります。
- デジタルのタッチポイントとして、アプリは有効である
- アプリで取得した行動データは、顧客体験の向上に還元する
店舗スタッフを巻き込んでいく工夫も重要
下谷 アプリをリリースしたあとのダウンロード促進は、どの企業にとっても大きな壁です。風間さんは無印良品ではどんな施策を行いましたか?
風間 MUJI passportの場合、広告でのアピールはほぼしませんでした。無印良品の売り上げの9割以上は店舗なので、顧客との最大のタッチポイントは店舗。ですから、お会計の時のレジでの声がけを徹底してもらいました。結局これが一番ダウンロードに繋がりましたね。
下谷 クライアントへのインタビューからもダウンロード促進のために店舗をどう巻き込んでいけばいいのかという声をよくいただきます。
風間 400店舗以上で、最初から同じクオリティのオペレーションをしてもらうのはなかなか難しかったです。繰り返し働きかけていって、少しずつ形になっていきました。
下谷 オペレーションがひとつ増えるだけで、店舗スタッフから「えーっ!」っていう声が上がってしまいがちです……。
風間 普段と違うことをやってもらおうとすると、それだけでストレスになってしまいますからね。店舗スタッフにとって「結局自分たちの仕事が増えるだけ」と思われないように、売り上げを可視化し、ダウンロード促進を行うメリットを共有するなど、丁寧に伝えていくことが大切です。
下谷 お客さんにアプリをダウンロードしてもらった後、会員登録もひとつのハードルかと思いますが、そこはどうやってクリアしましたか?
風間 MUJI passportの場合、「ダウンロード=会員登録」ということにしました。MUJI passportリリースの何年も前から無印良品週間という会員向けの優待期間を実施していましたが、アプリが無かった時代はレジで「クーポンメールはお持ちですか」と聞いて、持っていない場合、その場でメールアドレスを入れて会員登録をしてもらっていました。これって、早くお会計を済ませたいスタッフにとっても顧客とっても苦痛ですよね。だからMUJI passportは、ダウンロードしたら個人情報を入れなくても、すぐにアプリが使えるようにしました。
下谷 そのやり方のほうがいいんでしょうか?
風間 利用開始時に個人情報の入力が必須になっている企業アプリもありますが、何のために個人情報を取得する必要があるのかを深く考えず、「とりあえず入力してもらおう」程度の考えで入力フォームを設置しているのだろうと感じることも多いです。でも、それは顧客にとっては手間でしかない。
MUJI passportでは、住所や性別などの属性情報よりも、アプリを使い続けてもらえば、どんなものを購入しているか、どこのお店に行っているか、どんな商品の情報を見ているかなど、顧客像が分かることに繋がると考えました。個人情報を何も入力しないで、即利用可能にしたのは、MUJI passportの成功の一因になったと思います。
下谷 なるほど。店舗スタッフの協力を得るために、ストレスを少なくすることも大切ですね。
風間 そう思います。
下谷 あとは、ECサイトと店舗で売り上げが食い合いになってしまうと、敵対関係になってしまうという話も聞きます。やはりデータを開示して、「アプリを使うと売り上げが伸びる」と伝えていくことが各社の課題かなと思っています。カスタマーサクセスとしては、そのあたりの成功事例を収集し、共有していきたいです。
- アプリのダウンロード促進に、店舗の協力は必須
- 情報を開示して、ダウンロード促進に協力するメリットを伝えていく
アプリを作るだけではなく、活用してもらうために
下谷 ランチェスターでは2019年下期から部署の立ち上げを始め、活動のミッションを「弊社製品を利用してもらい、クライアントが永続的に自力でミッションを達成できる状態にすること」と定義しました。その上で、1.MAUの最大化、2.リテンションレート(顧客維持率)の向上、3.ブランドとファンのタッチポイントを増加させる、という3点を軸に支援していきます。
風間 カスタマーサクセスの役割は、今どの企業からも求められていることだと思います。企業にとって大事なのはアプリができてから先の運用になりますから。リリース後も寄り添ってくれるパートナーは求められているし、他社の知見も持っているのであれば、なおのこと心強いと思います。
下谷 風間さんと今日、こうしてお話をさせてもらい、カスタマーサクセスというのは、クライアントのことをよく理解して、ミッションの達成を一緒に目指すべき存在なのだと、再認識しました。クライアントは何を求めているのか、どうしたら成功できるのか、を考え続けていきたいです。
風間 デジタルシフトは施策ではなく、企業は経営戦略として捉えるべき課題です。デジタルシフトによって行きつきたい姿がしっかり定められていれば、短期的なKPIを設定するときや長期的な施策を考えるときに、そこへ向かっていくことができます。
企業側は、最終的なゴールを見定めているという前提の上で、カスタマーサクセスの皆さんと並走しながら、その方向に正しく進んでいるかを一足飛びではなく、順を追って確認し続けることが大切だと思います。
- クライアントのビジョンを理解し、実現に向けて一緒に進むのがカスタマーサクセス
今回の対談では、スマホ時代に活躍するアプリの活用方法を、風間さんの豊富なご経験のもとにお話しいただきました。
小売り店のデジタルシフトには欠かせないアプリには専門用語も多く、はじめは何かと難しいことが多いかもしれません。
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