アプリが顧客体験向上に効果的な理由と、体験の質を高めるアプリの作り方

今、アプリを活用した顧客体験の向上が、店舗を持つ小売業を中心に注目を浴びています。

アプリ市場分析サービスの提供会社であるApp Apeの調査によれば、2020年のユーザー1人当たりの平均所持アプリ数は103.4個で、前年比で9.5個増加しているとのこと。

アプリの需要は年々高まっており、顧客を持つすべての企業にとって無視できない存在になっています。

この記事では、なぜアプリが顧客体験向上に役立つのか、また顧客体験を向上できるアプリはどのように作ればいいのかをお伝えしていきます。

<こんな方におすすめ>

  • アプリ導入を検討している方
  • アプリ運用をしているが、顧客や売上への貢献度を感じられない方
  • 顧客体験を向上するための施策を検討中の方

 

■参考:App Ape「モバイルマーケット白書 2020」(https://ja.appa.pe/reports/whitepaper-mobilemarket-2020

顧客体験(CX)とは

顧客体験(Customer experience/CX)とは、顧客がある商品やサービスに興味を持った瞬間から、商品・サービス利用・継続に至るまで得られるすべての体験のことです。

テクノロジーやIT技術の進歩により、物流や商品開発技術が成熟してきているこの時代、商品を単純な“質”のみで差別化することは難しくなってきています。

そのような状況下で注目されているのが、顧客体験を向上することで自社やサービスのファンを増やすことなのです。

顧客体験については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてみてください。

アプリが顧客体験向上に効果的な理由

ではなぜアプリが顧客体験の向上に効果的なのでしょうか。理由は大きく分けて3つあります。

1.スマホは消費者にとって最も身近なデバイスであるため

人工知能による消費者・市場データ統合サービスを提供するdata.aiによれば、2021年のユーザー1人当たりが1日でモバイル利用に消費する時間は4.8時間との調査結果が出ています。

言い換えると、消費者の多くは起きている時間の約3分の1をスマホなどのモバイル利用に費やしているということになります。

例えばスマホは、たった1つのデバイスでさまざまな役割を担っています。

コミュニケーションツールとしての役割

  • 電話
  • SNS
  • メール

生活の利便性向上ツールとしての役割

  • 時計、アラーム
  • お財布
  • スケジュール帳
  • ポイントカード、会員証

エンタメ・娯楽を楽しむ場所としての役割

  • ECサイト/アプリ
  • 動画配信SNS/サービス等
  • ゲーム
  • 電子書籍

コンパクトかつ生活に必要な機能を搭載し、多くの人が肌身離さず持ち運ぶスマホは今、顧客との接点を作るのに最も適したデバイスと言えます。そのスマホのローカルな環境にダウンロードされるアプリは、顧客との距離を縮められるツールです。

■参考:「モバイル市場年鑑2022」(https://www.data.ai/jp/insights/market-data/state-of-mobile-2022/

2.顧客に適したコミュニケーションを取りやすいため

アプリには以下の3つの特徴があり、これらが顧客体験の向上に貢献します。

  • 場所を問わず顧客と企業が接点を持てる
  • 顧客それぞれに合わせた情報発信ができる
  • 顧客に対し能動的にアクションできる


企業にとっては【1】場所を問わず狙ったタイミングに接客できる、【2】ログ・データが取れれば、その顧客がどんな人物なのかを把握できる、といったメリットがあります。

顧客目線では【1】場所を問わずに情報を得られる、【2】都合のよいタイミングに知りたいことを知れる/購買できる、といった利点もあり、企業と顧客お互いにとってちょうどよい、最適なコミュニケーションができるツールです。 

顧客に対して能動的なアクションを行えるのもアプリの特徴です。例えば、WebサイトやSNSは基本的には顧客から来てもらうのを“待つ”傾向にありますが、対するアプリは、プッシュ通知やお知らせ機能などを通して顧客のもとへ“訪問”できます。

顧客のスマホというプライベートな空間に自社やブランドの情報を表示させることで、より覚えてもらいやすく、身近に感じられるきっかけにもなります。

3.ログ・データが取れ、分析に使えるため

顧客体験を高めるために大切なのは、体験を提供した際の顧客の行動を見ること、そして次のアクションに改善が必要なのかを見極めることです。

ただし、見られるデータの種類や精度は仕様や設計によって異なるため、どのようなデータが取りたいのかは導入前に確認しておく必要があります。

下記は一例ではありますが、アプリプラットフォーム「MGRe」の場合(弊社サービスの例で恐縮です)、アプリをもとに以下のデータを確認することができます。

  • ユーザーのタイプ別の定着状況
  • アプリからの送客人数(店舗、Webサイト等)
  • コンテンツ別の閲覧回数の推移
  • ユーザーとの繋がりの深さ


見られるデータの種類については随時アップデートしているので、気になる方は弊社担当者までお問い合わせください。

データ分析について聞いてみる

顧客体験向上に効果的なアプリの作り方

アプリが顧客体験に貢献できる理由が分かったところで、次に気になるのは、顧客体験を高められるアプリはどのようにすれば作れるのか?という点ではないでしょうか。 

顧客体験の向上に効果的なアプリの作り方は、以下の流れになります。

  1. 課題抽出
  2. 目的・目標設定
  3. アプリ設計
  4. 実装
  5. 運用設計
  6. テストアプリ作成

課題抽出

まずは、顧客体験に関する現状の課題は何か考えてみましょう。

自社が提供したい顧客体験とはどのようなもので、そのためには何が足りていないのでしょうか。改善点を把握することが、顧客体験の向上への第一歩です。 

  1. チャネルのリストアップ
  2. 各施策の成果を確認する
  3. 自分が“顧客”になり体験してみる

 
上記の流れで顧客体験における改善点を洗い出します。

特に1つ目は重要で、店舗やWebサイト、SNSなどのチャネルは、顧客を繋ぎとめる大切な接点になります。すべてを把握できていなければ顧客を見落とす原因になり、体験設計に漏れが出てしまう可能性があります。 

「各担当領域の範囲内は把握しているものの、全体を俯瞰して見られる人がいない」というケースは意外に多いので、この工程は念入りに行いましょう。

全体が把握できたら、それぞれの成果も確認し、自社の顧客と相性の良いチャネルを改めて考えてみます。

また、顧客がどのような体験をしているのかは机の上では分かりません。それぞれの現場に足を運び、自身が顧客になってみるのも課題発見への重要なアプローチです。

顧客体験を作る上で重要な観点は、顧客にとって心地よい接客ができているか、です。デザインの良さやアピール内容の洗練度も大切ではありますが、それ以上に、現場で提供されるサービスを良くしていくことが求められます。

顧客の立場になってみたときにストレスに感じられる点は無いか、適切なコミュニケーションが取れているかチェックしましょう。

目的・目標設定

課題が明確になったところで、顧客体験におけるアプリ導入の目的・目標を明確にしましょう。その目的を達成するためには、どういった指標で目標値を定めるべきかも考えてみます。

例えば、以下のようなイメージです。

ロイヤルカスタマー(ファン)を増やすことが目的の場合

  • WAU(Weekly Active User/その週にアプリを1度でも開いたユーザーの数)
  • SV(ページが閲覧された合計回数)
  • SV/MAU(アクティブユーザーあたりの平均SV)
  • PUSH通知可能なユニークデバイス数

 
ロイヤルカスタマーとは、自社のブランド・サービスを愛し、他社の類似商品には興味を示さないほどに熱狂的なファンとなっている顧客のことを指します。

リピーターに効果的な施策であるアプリでは、ぜひこの目的を掲げていきたいところです。上記のリストを参考に、KPIを決めていきましょう。

チャネル横断をスムーズにしたい場合

  • アプリからECへの遷移率
  • アプリ経由のCVR

アプリと他のチャネルをスムーズに行き来できるようになれば、顧客体験は高まります。

例えば、アプリからECサイトへの導線を敷く場合には、参照元メディアのうちアプリからECサイトに訪れた顧客の割合はどのくらいかや、実際に商品閲覧や購入に至ったかなどの目標達成率を測ることで顧客体験を評価する材料になります。

顧客の購買モチベーションアップが目的の場合

売上アップはどの企業においても目標となる“真のKPI”と言えますが、顧客体験を高めることで顧客の購買への意欲を上げるきっかけになります。

そのような目的の場合には、以下を評価軸にすると良いでしょう。

  • 店舗でのアプリ提示率
  • 各店舗のコンテンツ配信量
  • MAU(Monthly Active User/その月にアプリを1度でも開いたユーザーの数)

レジを通す際にどのくらいの顧客がアプリを提示したのかを確認することで、顧客に利用されているのかを測る評価軸になります。

あくまで“ダウンロード数”ではなく、“提示率”と定めることで、実際にアプリを利用しているかどうかを判断する材料になるでしょう。

また同様に、MAUはアプリが実際に利用されているか評価する指標になりますので、顧客との関係値を高めるためにも気にしたいところです。

アプリ設計

設計時の前提として、顧客体験を高めるためには顧客のフィードバックを施策に反映し継続的な改善を重ねる必要があります。

そのため、【1】行動履歴を残せること、【2】後からその結果を振り返り分析できる状態を作ることが必須となります。

【1】と【2】を実現するために、以下のポイントを押さえましょう。

フルスクラッチの場合

  • firebaseなど、分析機能のある仕組みを入れる
  • 有料でデータ収集出来るツールを入れる


アプリ開発プラットフォームの場合

  • 分析機能のついたプラットフォームを選ぶ
  • 外部のデータ分析ツールを導入・連携できるプラットフォームを選ぶ


分析機能というのは、Webサイトでいうところの
Google Analyticsのようなイメージです。

 これらを押さえた上で、

  • 顧客にとって必要な機能のみを揃える
  • UI/UX(使いやすさ/アプリ上の顧客体験)の向上

 
上記2点を意識して、アプリをどのような仕様にするか定めていきます。機能の例としては、以下が挙げられます。

<購買への導線を作りたい場合>
プッシュ通知、お知らせ、クーポンなど

<コンテンツへの導線を作りたい場合>
アプリ内コンテンツ、SNS、Web記事など

売上アップとファン度アップの導線設計例

上図のように、売上を上げることとファン醸成の双方に効果的な導線をバランス良く作り、顧客に喜ばれるアプリ設計を目指しましょう。

実装

前項での設計内容をもとに、実際にアプリを作っていきます。

UI実装において気を付ける点

  • OSのガイドラインに沿ったUI設計にする
  • 表示待ちのストレスを最小限に抑える


1つ目のUI設計については、AndroidやiOSなど各OSのガイドラインを参考に
すると良いでしょう。

Androidはマテリアルデザインを参考にしてUIやデザインを決めていきます。

iOSの場合はヒューマンインターフェースガイドラインを参考にしましょう。iOSに関してはデザイン定義はありませんが、OSの仕様である「フラットデザイン」と呼ばれるものに近づけるのが無難です。

上記のUIに準拠したアプリ仕様であれば、OSのアップデート時にも問題なく動作する可能性が高く、保守工数を抑えることができます。

2つ目については、アプリの読み込み時間が長いとストレスになり顧客の体験を損なう原因になります。

  • 表示に必要なデータのみ取り出して、スクロールするたびにデータを追加で取得し表示していく手法(非同期通信)を取る
  • 遷移先の画面のデータを事前に取得(先読み)して画面遷移をスムーズにする

 
上記のような工夫をすることで、表示待ち時間を最小限に抑えやすくなります。

システム実装において気を付ける点

アプリの強みは、行動データ・履歴さえ取得できれば、顧客一人ひとりの特徴や趣味趣向の把握にまで繋げられる点です。

その特徴を活かし、それぞれの顧客に適したコンテンツを届けるために、以下の機能を実装することが重要になります。 

  • セグメント配信機能
  • 自動ログイン(SSO)機能

 
アプリは、適切なタイミングで適切な人に適切なコミュニケーションができるからこそ価値を発揮するものです。マスコミュニケーションをするだけであれば、SNSやWebサイト、プロモーション活動だけで十分です。

顧客の好みや属性に合わせた発信をできる仕組みを作りましょう。

運用設計

顧客体験においては、体験を届け続けること=さまざまな施策を打ち、情報やコンテンツを継続的に届けることが重要になります。つまり、運用時期からが顧客体験提供の本番ということです。

そこで、アプリでの施策を回していくときに、きちんと施策の成果を測ることができ、かつ改善に持っていける体制づくりをしていきます。

アプリ施策の例

  • セールなどのキャンペーンのお知らせ
  • ストーリー的コンテンツ(商品について、ブランドについてなど)
  • クーポンなどインセンティブ

 
例えば、セールなどのキャンペーンはプッシュ通知やお知らせで配信しますが、同じ施策を複数チャネルから行ったときに、他チャネルと比較してアプリの成果がどうだったのかを振り返る運用にすれば、アプリユーザーのニーズを測るヒントになります。

施策の成果を確認する際には、以下のポイントを押さえましょう。

<施策の検証に必要なこと>

  • 行動データ収集
  • データ分析ツール
  • 外部ツールとのデータ連携

 
行動データとは、アプリユーザーがどの画面を見たのか、その次にどこにいったのか、自社が目標とするCVを達成したのかなどのデータのことです。

これらが分かるようになれば、どのポイントでユーザーがつまずいてしまうのか、離脱に繋がっているのか改善の糸口を見つけられるようになります。

データ分析ツールとは、上記の行動データを分析してくれるツールのことです。ダッシュボード化されたデータを見られるので、ひと目で顧客の行動分析ができるのです。 

ダッシュボードの見え方は、以下の画像のようなイメージです。

顧客行動の分析イメージ

顧客がいつ、どのようなアクションを行ったのか、好みの商品はどのようなものなのか、よく利用されている施策やチャネルは何かなど、一人ひとりを深ぼって知れるようになります。

アプリ内のどの要素が顧客の購買モチベーションアップに繋がったのかなどを検証できるようになり、顧客体験向上に役立てられます。

テストアプリ作成

上記を全て反映したデモ版のアプリを作成していきます。
この段階でバグが出たら修正し、アップデートを繰り返して理想のアプリを目指しましょう。
テストアプリ作成時のチェックポイントは以下の通りです。

  • iOS/Androidや古い機種/最新機種などさまざまな環境で試してみる
  • バグが無いか、動作にストレスが無いかを複数人で調査する
  • 店舗など施設利用を前提としている場合、現地でのオペレーションを確認する

 
さまざまな環境で、できるだけ多くの人の目と手を介して確認することが大切ですの。加えて、もし施設利用を前提としているアプリなのであれば、実際に利用する状況でのシミュレーションを重ねると改善点を見つけやすいです。

スタッフや顧客(またはロープレで顧客側の人物)がつまづいてしまうポイントがあればアプリを修正するヒントになりますし、アプリの案内方法等のオペレーション内容に誤りが無いかも併せて確認すると安心です。

アプリ導入・運用での注意点

 

さいごに、アプリでの顧客体験向上を行うにあたり、気を付けたい点を4つお伝えします。

アプリはあくまでリピーター向け施策

アプリはダウンロードというハードルがあるため、例えばWebサイトやSNSと比べるとリピーター向けのチャネルになります。

アプリのみでの新規顧客獲得は難しいため、自社が新規顧客の獲得を急いでいる場合にはそのためのチャネルについても検討したほうが良いかもしれません。 

今、アプリを導入するべき段階なのか迷った際には、アプリベンダーやコンサルタントに相談してみるのも手です。

データ活用・数値分析を欠かさない

アプリはリリースがゴールではなく、リリースしてからがスタート。アプリが輝くときは、ダウンロードされた時ではなく、ユーザーに利用されている時です。

使い続けてもらうアプリにするためには、顧客によりよい体験を提供することが重要で、そのためにはデータや数値など事実をもとにした分析を行い改善し続けていくことが大切です。

運用は、出来れば自社内で行うのが吉

先ほど、「アプリはリピーター向け施策である」とお伝えした通り、アプリ施策で求められる成果は、ユーザーのファン度を上げていくことです。

アプリにおいて欠かせない施策は、コンテンツ配信などを通してブランドメッセージを伝えることですが、そのためにはブランドのことを深く理解している必要があります。これは外部の担当者だと根本まで理解することはなかなか難しいでしょう。

できれば自社内で、ブランドをよく理解している担当者が発信を行うのが理想的です。忙しい中だとは思いますが、ここはぜひグッと足を踏ん張って、「顧客によい体験を提供する」「それによりファンを増やす」という目的に対して効果的なアクションを検討してみましょう。

オリジナルUIはリスクだと知っておく

自社アプリを開発する際に、「オリジナルのUIでブランドの世界観を表現したい」と独自の操作感を作ろうとするケースがあります。

ですが、顧客体験の観点からすると独自UIの開発は基本的には避けた方が無難です。

理由としては、アプリは使い続けてもらうためのツールであるためです。

そのアプリの使い方を“学習”しなければならないとなると、アンインストールを誘引する原因になります。顧客が普段使い慣れているUIに近づける方がむしろ良いでしょう。

また、アプリのUIは特殊であり、WebのUIとは大きく異なります。その知見がある開発者が制作を進めないと失敗するリスクがあるので、その点も踏まえて開発に進めましょう。

まとめ

顧客体験向上に効果的なアプリですが、ただ作ればいいということではありません。

  • 自社と自社の顧客にとって最適な設計であること
  • 運用時に使いやすく、欲しいデータを得られる状態であること
  • ブランドを理解している人が運用に関わること


上記を押さえた上で、自社らしいアプリを作り改善を重ね、顧客に届け続けましょう。

今回は、顧客体験という一つの切り口からアプリの作り方をご紹介しましたが、弊社が提供するアプリマーケティングプラットフォーム『MGRe(メグリ)』では、iOSとAndroidどちらのユーザーにとっても使いやすい設計を意識してアプリ開発を行っています。

どのようなデザインにすると顧客体験を高められるのか、既に持っているアプリや作りたいアプリの設計に問題が無いか気になる方は、弊社までご相談ください。

アプリ開発について相談してみる