「リピーターという言葉自体はよく使われてはいますが、ECサイトにおいて具体的な対策を実行できているケースは、残念ながらそう多くありません。」
そう語る水岩さんは、ECプラットフォーム「futureshop(フューチャーショップ)」においてCRM(顧客関係管理)を20年に渡り支援し続けている、顧客管理のプロフェッショナル。
そもそも、顧客のライフスタイルや趣味趣向は変化するものであり、一定の顧客離れは避けられません。
ですが、企業側が顧客離れの要因を作ってしまっているケースがあるとすれば、それらは最小限に抑えたいところです。
この記事では、フューチャーショップ水岩氏監修のもと、顧客離れ(離反)が起きる原因と、離反を防ぐための抑止策についてお伝えしていきます。
なお、リピーターの重要性やリピーター向け施策の基本については、「リピーターを増やすためには何をすればいい?効果的な施策と注意点」にてお伝えしています。
まずは基本的なことが知りたい方は、こちらからお読みください。
この記事の監修者
株式会社フューチャーショップ
サービスプロデュース部 ビジネスアナリスト
水岩 雄一 氏
外資系CRMベンダーのセールスコンサルタント、テーマパーク運営会社でのCRMシステム企画・導入のプロジェクトマネージャー、国内CRMベンダーでのプロダクト企画責任者・エバンジェリストを経て、2018年に株式会社フューチャーショップへ入社。同社では、EC市場の調査や、ECサイト構築プラットフォーム『futureshop』の機能に関する企画、CRMやデジタルマーケティングについてのセミナー講師やブログ執筆など、多岐にわたり活動している。
顧客離れはなぜ起きる?
(株)日経リサーチが日本全国の一般消費者1万2,368人に対し実施した調査「生活者痛点 基本調査」によると、サービスや商品の不便さや期待外れ感を実感した消費者は65%に上ります。その一方で、企業に申し出る消費者は上記のうち約3人に1人(27.5%)のみで、これは米国と比べると約半数に留まります。
つまり、「サイレントカスタマー」の多い日本人の国民性を捉えると、企業が問題を認識するより先に顧客離れが起きてしまっている、ブラックボックス化された要因は多いとも言えるのです。そのため、せめて顕在化している離反理由だけでも知り、対策しておくことが重要。
また、水岩さんによると、離反理由には顧客のステージによって明確に違いがあるとのことです。例えば、離反した顧客が1回のみの購入者なのか(新規顧客)、それとも何回も購入しているのか(リピーター)によっても、顧客離れの要因は大きく変わるのです。
下記、新規顧客とリピーターによくある離反理由をそれぞれ記載しますので、違いを見比べてみましょう。
【新規顧客によくある離反理由】
- ブランドやショップのことをあまり知らないため、愛着が持てない
- 2回目の購入をする前にそのショップのことを忘れてしまう
【リピーターによくある離反理由】
- 商品ラインナップに不満がある
- コミュニケーション方法に不満または不安がある
- ECサイトや店舗の利便性に問題がある
新規顧客の場合には、そのブランドやショップのことがあまり印象に残っておらず、半年もすれば忘れてしまう、つまり顧客との繋がりの薄さが起因する離反が多い傾向にあります。
一方のリピーターにおいては、具体的な不満があることが離反のきっかけとなり、顧客の期待値を超えられなかった明確な理由があるのです。
これらを踏まえた上で、新規顧客とリピーターそれぞれの離反対策について紹介していきます。なお、リピーターの離反動機が新規顧客に比べて複雑化すること、リピーターの離反対策の方が施策の難易度が高いことから、この記事ではリピーター対策をより深ぼって紹介していきます。
新規顧客の離反対策
前述の通り、新規顧客の離反理由、つまり一度だけその店舗で購入したことのある顧客が2回目購入(F2転換)に至らない要因としては、そのブランドや商品の良さを知ることができなかった、または興味関心を引き出せなかったことが考えられます。
そのため、効果的な離反対策としては、自社やブランドの良さを知ってもらうための対策を取ると良いでしょう。
まずは初回購入時に連絡先の登録をしてもらった上で、次の購入を促すためのステップメールを配信します。
たとえば、以下のようなコンテンツ設計でコミュニケーションを取っていくことが効果的です。
【ピザ販売EC店舗の配信コンテンツ例】
一定期間後に2回目購入に至らなかった顧客に対しては、クーポンを配布するなどして、購買モチベーションを高める仕掛けを設けるとよいでしょう。
F2転換に有効な施策
新規顧客のF2転換に有効な施策としては、以下が挙げられます。
- 初回購入者だけが使えるクーポンを配布
- 初回購入時の同梱物(クーポン、サンプル、販促ツール、カタログ、パンフレット等)
- ファン化施策よりも、販促的な施策を優先
新規顧客に対しては、リピーターに比べて販促費用の比率が高くても問題ありません。
理由としては、リピーター獲得において最もハードルが高いのが1回目購入から2回目購入であるためです。
水岩さんによると、担当されているショップ150社全てにおいて、その後のF3、F4、F5に上るにつれ、転換率は上がっていく傾向にあるそうです。
顧客は購買の回数を重ねれば重ねるほど、その次の購買確率は高くなっていくので、まずは一番大きなハードルである、2回目の購入に繋げやすくなる施策を走らせましょう。
リピーターの離反対策
新規顧客と比べて、リピーターの離反理由はショップや顧客によって多様に考えられ、より複雑化します。彼らの離反動機に共通して言えるのは、商品やサービスに何らかの不満があること。
離反の決定打が一つある可能性もあれば、複数課題点がある場合もあるので、顧客が抱える不安を一つでも拾い上げて改善を重ねることが大切です。
リピーターの離反対策には、以下が有効です。
- 新商品を開発/発売する
- 人気商品や新商品のリピーター用の在庫を確保しておく
- アンケートを実施し、顧客が抱える不安や不満をいち早く改善する
また、上記を行うだけでなく、その不満について「改善した」ということを、きちんと顧客に伝えていくことも重要です。
顧客に誠意が伝わることで、リピーター獲得はもちろんブランディングにも貢献し、結果的に販促に繋がっていくでしょう。
新商品を開発/発売する
新商品の開発と販売も重要で、理由としては、以下の3つが挙げられます。
- 顧客を飽きさせないため
- アップデートされた商品を販売することで、顧客満足度をより高めるため
- ファンになればなるほど、新商品に対する興味関心が強くなるため
もし顧客から商品について意見が挙がったり、クレームがあった際には、それらの改善を踏まえた新商品を発売することで、信頼獲得に繋がります。
そして、自社を支えるロイヤルカスタマーほど、新商品に対するアンテナが張られる傾向があります。
ここで、ある自動車メーカーAの商品販売の事例を挙げ、ファンの心理を覗いてみましょう。
自動車メーカーA、Bの新商品販売についての事例
日本発の自動車メーカーであるAには、国内外で人気な車種があり、当時日本での発売以降10年以上もの月日が経っていました。
10年以上も同じスペックだったので、パワーや機能は最新車種と比べて古くなっており、ファンの間では新モデルの発売を待ち望まれていたところでした。
そのような状況の中、その商品の北米での発売が発表されたのです。国内のファンは、その話を聞いて、近いうちに日本でも発売されることを期待して盛り上がっていました。
ですが、待てど暮らせど日本で発売されるという話はなく、しばらくすると上海での発売が発表されます。その後も結局、2年以上待っても新モデルは国内発売されないまま、日本のファンは愛想を尽かしている状況でした。
もともとこの車種は日本国内でものすごく売れたものでしたが、ファンから見ると、ローカルのファンをおいてけぼりにして、海外の大きな市場に投資しているようにも思われてしまいました。なかなか新作が国内で発売されないため、しびれを切らして別メーカーに乗り換えるファンも続出します。
メーカーAのファン離れが進むなか、注目を浴びたのが、同じく国内メーカーである自動車メーカーBが販売する、人気オープンカー。
展示施設では、100台以上が並ぶ壮観な景色にファンを湧かせ、更にその施設でのファンイベントを開催します。イベントには、そのモデルのデザイナーが登場するなど、ファンのモチベーションが高まる企画を実施したのです。
メーカーBは世界に先駆け、国内で開催されたファンイベントにて、その車種の新作モデルの販売を最初に発表しています。国内ファンを大切にする姿勢に感動し、メーカーAの対応に辟易していたファンが流れることもありました。
ここで分かることは、人気商品でもいつかは時代と共にアップデートをしなければならない時がくること、そして、新商品発売はファンの信頼を獲得できるマーケティングコミュニケーションとなることです。
メーカーAの事例のように「人気商品があるから、熱狂的なファンがいるから」とあぐらをかいていれば、いずれは競合企業に先を越されてしまうでしょう。
この記事をお読みの方には、ぜひファンの期待に応え続けブランドを発展させていっていただきたいです。
人気商品や新商品のリピーター用の在庫を確保しておく
人気商品や新商品の在庫枠を優良顧客のために確保しておくことも、リピーターとの関係を繋ぎとめるために有効です。
例えば、ある旅館ではリピーター顧客専用の枠を確保しており、新規よりも優先的に案内をしています。新規顧客が予約をしようと電話を掛けると「リピーター様向けの枠なので、予約をお受けできません。」とお断りを入れるのです。
新規顧客に比べて自分たちが優遇されることは、顧客にとっては優越感や特別感を得られますし、リピーターになるメリットと言えます。「常連になる」モチベーションは高まりやすくなり、顧客の再来を促進できることでしょう。
アンケートを実施し、顧客が抱える不安や不満をいち早く改善する
もっとも確実に自社の課題点を見つける方法としては、顧客の不満や不安を直接ヒアリングすることです。
自社が大切にするべきファンが抱えている思いを推しはかるべく、優良顧客(できれば優良離反顧客)に向けてアンケートを取ることもおすすめです。
送付タイミングとしては、【1】定期的に行う、もしくは【2】優良離反顧客が増えてきたときに行うとよいでしょう。
アンケート回答を促すために、クーポンなどのインセンティブを設けるケースも多いですが、離反理由を知る観点においては、例えば自社ブランドでしか使えないインセンティブを提供するのは効果的とは言えません。
理由としては、そもそも、そのブランドのものがもう欲しくないから離れてしまう顧客もいるためです。
Amazonギフト券など、汎用性の高いインセンティブを配布することで、アンケート回答への意欲を高めやすくなるでしょう。
顧客離れを防ぐ四ヵ条
さいごに、顧客離れを最小限にするために心がけたい、4つのポイントをお伝えしておきます。
【1】中長期的な目線に立ち考える
例えば、売上額が目標として課せられているECサイト運営者の場合、今日明日の売上金額を意識しながら日々業務に取り組むのではないでしょうか。
確かに、その目標設定のもとであれば、いかにECサイトに集客できるのか、もしくは集客できた顧客のコンバージョン率を上げられるかに注力することはごく自然な流れです。
ただ、自社のブランドや企業継続を考えた時に、中長期的な売上を確保することも当然ながら重要になります。
ショップや商品のことを好きになってくれる人を増やすには何をしたらいいか、そのためにいま改善するべきことはあるか。目まぐるしい日々の中でも立ち止まって考えてみることが、数か月、数年後の売上に生きてくるでしょう。
その視点から見れば、クーポン配布は短期的には顧客数や売上を上げやすい一方で、長期的に見た時には利益が少なく、割引適用がされない際の離反リスクもはらんでいることが見えてきたりします。商品の価値を下げる施策を打つことに慎重になり、結果的にブランドを守ることにつながるかもしれません。
自分たちのブランドの価値を守りつつ、顧客から「また買いたい、使いたい」と思いつづけてもらえるサービス提供のために、先述したようなリピーター対策を行いましょう。
【2】自社にとっての優良顧客は誰かを知る
あなたのブランドや企業における「優良顧客」とはどういった人物像を指すでしょうか?
もしこの問いに対しすぐに回答が出てこない場合、理想の顧客像を定義することでビジネスの方向づけがしやすくなり、顧客獲得や利益向上につながるかもしれません。
自社にとっての優良顧客の特徴や購入頻度はどのくらいか、あるいは自社やブランドにおける購買やコミュニケーションを重ねることで最終的にどのような状態になって欲しいのか。
そういった部分を明確にすることで、既存顧客の状態は理想に対してどのくらい差があるのか把握しやすくなり、次に適切なアクションを取りやすくなります。
【3】リピーターに対して安売りはしない
先述で、新規顧客に関しては販促費用の比率が高くても問題無いとお伝えしましたが、リピーターに関しては、ファン化を促すためにも、販促の比率を下げる意識が必要です。
ここでいう「販促」とは、平たく言えば「安売り」のことを指しています。
例えば、クーポン配布や割引などのインセンティブは手軽な反面、商品の価値を下げて販売することが常態化してしまうと、定価で買ってもらえないなど長期的に見た時のリスクが高まります。
上図:弊社記事「買ってもらえるECサイトを作る4つの心得|意識するべきは“売上額”よりも“LTV”」より
そのため、リピーターに対しての割引・値引は最小限に抑え、「次回も同じ商品を買いたくなるか」「ブランドに対して好感を持てるか」などファン化促進の基準で施策を決定しましょう。
リピーターの重要性や取るべき施策については、リピーターに関する記事にて紹介しているので、あわせて参考にしてみて下さい。
【4】顧客を知る
CRMとは、顧客との関係性を強化してファン化を促すことにより、商品利用や購入のリピート促進をする経営手法を指します。
顧客離れを防ぎ定着を目指すのであれば、まずは自社の顧客の興味関心や行動傾向を把握することが大切です。
顧客の動きを把握できない状況にある場合や、顧客情報のデータベースが無い場合はCRM導入を検討しましょう。
CRMについては、CRMの概要とできることについて紹介した記事がありますので、気になる方はご覧ください。
まとめ
顧客があるブランドや企業から離れていってしまう理由は、顧客のステージにおいても、顧客それぞれの趣味趣向においても異なります。
たった1つの正解こそないものの、顧客と向き合い続ける努力が必要だということには間違いありません。
新規顧客とリピーター双方の離反要因を解消できるよう、この記事でご紹介した対策を参考にしてみてください。
自社ECサイトを活用したリピーター獲得については株式会社フューチャーショップまで、アプリを活用したリピーター獲得については、アプリプラットフォーム提供企業である弊社MGReまでお気軽にご相談ください。