2023年6月に、アプリマーケティングプラットフォーム『MGRe(メグリ)』は3周年を迎えました。導入企業は67社(※)となり、月間アクティブユーザー数は900万人を超え、企業やユーザーの要望に応えるために日々アップデートを重ねています。
そしてMGReの管理画面に組み込まれている、アプリデータ活用ツール『MGRe Insight(メグリ インサイト)』も、リリース以降進化を続けてきました。
MGRe Insightは、MGReのプロダクトコンセプトであり、かつメグリ株式会社のビジョンでもある「すべてのデータをよろこびの体験に」の実現を支える重要な役割を担います。
今回は、MGRe Insightが生まれた背景や新機能・ECコンバージョンについて、代表の田代、データエンジニアの猿渡、プランナーの篠田が語ります。
※2023年7月時点
Contents
MGRe Insight(メグリ インサイト)とは
――MGRe Insightとは、どのようなツールなのでしょうか?
篠田:MGRe Insightは、誰でも手軽にデータを扱えて、次のアクションにつなげられるように作られたマーケティングツールです。
【1】アプリ全体の利用状況、【2】ユーザーの利用状況という、2つの切り口から厳選された情報を見せることで、知識が無い方でもアプリの利用状況をひと目で把握できます。
>>Insightの機能については、こちらの記事で紹介しています(弊社noteへ飛びます)
MGRe Insightが生まれた背景
――Insightはどのようにして生まれたのですか?
田代:もともと、MGReの前身である『EAP』の初期設計の段階から、アプリを他のシステムと連携しつつ、データも蓄積できるようにしたいという思いがありました。
そのきっかけになったのが、以前弊社が開発のお手伝いをしたこともある、良品計画さんが提供する『MUJI passport』というアプリの構造コンセプトです。
下図には、顧客のすべての行動・購買データを一元化して、どのチャネルにおいても1人の顧客を1つのIDで区別できるようになる、ということが書かれています。そのデータを分析したり、マーケティングやAIを組み合わせることで顧客体験を変えていくイメージですね。
田代:私たちのサービスでも、アプリかその他のチャネルかに関わらず、ユーザーIDでデータを串刺しにして、顧客1人ひとりのデータを横断的に見られるようにしたい。そして、施策を打ったり他のテクノロジーと連携できるようにしたい、という風に考えました。
いきなりデータ周りの仕組みを作ることは難しかったため、「まずはアプリ制作からスタートして、段階的にデータの方も見られるプロダクトを作ろう」という計画に至ったのが、MGReやMGRe Insightのはじまりです。
良品計画さんのこの構造コンセプトからの着想が無ければ、もしかしたらMGReやInsightは生まれていないかもしれませんね。
――開発をスタートしたきっかけは?
篠田:実はEAPを開始した2017年頃は、Google アナリティクスのモバイル版があり、その中にアプリのデータを溜めたり、外部へのデータ出力をすることが可能でした。
費用的にリーズナブルだったこともあり、このサービスを利用していたのです。
当時から「データを自分たちで溜めたい」という思いはあったものの、データを溜める場所やコストはどうするのか…といった問題があり、開発の見通しは立っていませんでした。
ところが、2018年にサービス終了のアナウンスが流れました。それで、1年後には本当に無くなってしまうことになって。
このことをきっかけに、自分たちの責任でデータを確保して使えるような仕組みが必要だとあらためて考えました。
「そろそろ腹をくくってやらないと駄目だろうな」と思ったのが、このタイミングだったんです。
その頃は、別のプロジェクトの関係で猿渡さんと話す機会も多かったので、分析サービスの話はよくしていましたね。
「データを自分たちで溜めて、もっと深い分析や、マーケティングにデータを使えるようなプラットフォームにしていけたら、それだけで事業ができるかも」と。
>>EAPからMGReへのリブランディングについては、以下の記事で紹介しています。
Insightで実現したいこと
――Insightは、どのようなツールを目指して開発されましたか?
篠田:当時、EAPではGoogle アナリティクスのデータを使って、簡単な数字だけを見られる「ダッシュボード」という機能を提供していました。
見た目はこんな感じ(下図)で、今のMGRe Insightと似ています。
(画像)2018年のアプリ版GA終了時、当時のEAP内に導入されたダッシュボードのイメージ画像(※ランチェスター:メグリの旧社名)
(画像)MGRe Insightの現ダッシュボード
篠田:まずは、このダッシュボードの通りにデータを取れるようにすることが目標として決まりました。このとき、「どうせならば、しっかり自分達でデータを集めたい」という話もしていました。
そこで、MGReがリリースされる半年ほど前に議論を重ねて、出た基本方針がこの4つです。
<Insightの基本方針>
-
- アプリがどのように使われているか、簡単に把握できるようにすること
- その上で施策を考えて実行でき、結果もわかるようにすること
- 外部システムとの連携を可能にし、企業全体のマーケティング施策や戦略にアプリのデータを活用できる状態をつくること
- 同時に、外部からのアプリ向け施策も実施できるように連携すること
1つ目の、アプリがどう使われているかを把握できることは最低条件でした。
その上で、2つ目にある、データをもとに施策を考えて実行して結果を把握できることも必要だと考えました。
企業全体の施策戦略にアプリをきちんとつなげた上で、「これはMGReの中でやるべき」「これはアプリ外の話なので、外部システムとつなげられるようにするべき」という仕分けをしたのです。
(画像)MGReの構成を表した図。MGReのプロダクト内で提供する範囲と、外部システムとの連携で実現する範囲を分けており、当初の基本方針案が踏襲されている
篠田:これには、EAP時代の反省が生きています。
当時、Google アナリティクスでデータを見られるようにしたのはいいものの、多くのお客さまにとっては使いこなすことが難しかったんです。結局、篠田宛てに沢山の質問がきてしまって、僕が困る…という事態が起きていました。
このときに感じたのは、みんな「分析がしたい」わけではない。「分析ツールが欲しい」わけでもない、ということです。
お客さまは、自社アプリの現状がどうなっているのか、それで何をしたらいいのか?を知りたいのです。
つまり、使いこなすのが難しい高度な分析ツールを、僕たちMGReが提供することにはあまり意味がないと考えました。
見て満足するのではなく、その情報をもとに仮説を立てて、アクションを起こす。そして、その結果を次につながるようにしていけることが大事なのです。
――きちんと成果につながるためのデータ活用が必要なのですね。
篠田:そうです。これが今のMGRe Insightの一番根幹にある「誰でも簡単にわかりやすく使える」という話につながっていて。
(画像)MGRe Insight立ち上げ当初に設定された解決課題(弊社社内資料より)
篠田:あくまで使いやすさが大切なので、難しい複雑な機能はあまり入れないようにしているんですよ。
加えて、僕たちはアプリプラットフォームの提供会社だという、身の丈は知っておかなくてはいけない。MGReはアプリのデータは持っていても、ECやPOSといった他チャネルのデータは持っていないのです。
お客さまは、アプリとは別の場所にデータを集約している可能性が高いので、きちんとアプリのデータをお渡しできるようにすることも課題でした。
つまり、アプリだけで提供できるようにすることと、企業全体に貢献できるようにすることの、2つの切り口がInsightの設計思想の根底にはあります。
――設計・開発をする上で工夫していることは?
猿渡:MGReのお客さまのバラエティーは幅広く、分析スキルや会社のリソース、業種も違ければ、担当者の経験値も千差万別です。
そのため、どこに開発の照準を合わせるのかは、開発当初から苦労してきたところではあります。
今は「初心者でも簡単にわかるような機能は揃えつつ、上級者の人も見たいデータを出せる状態にしていく」という方針で、バランスを取りながら開発に取り組んでいます。
その進め方で、ある程度うまくいきはじめている感覚はありますね。
篠田:お客さまに使用感などをインタビューすることもあります。そこで出た意見やアイディアを、単に真に受けるというよりかは、その奥にある「本当の課題」というものを探しに行くことを心がけています。
猿渡:ただ、「本当の課題」はお客さまによって異なるんですよね。
篠田:そうですね。そもそも、お客さまは分析を「好き」でやっているわけではないし、でも何か知りたいと思っている。だけどすごく困っている、という状況で。
先ほどもお話したように、高度な分析機能を提供しても結局使いこなすことは難しいんです。
それで言うと、このツールの名前を「MGRe Insight」にするのか、「MGRe Analytics」にするのかの話がありましたね。
――「MGRe Insight」の名前の由来は?
田代:最初は『MGRe Analytics』が案として上がってきました。で、「これは違うな。」となって。
篠田:僕たちは、単に分析機能を提供したいのではなくて、お客さまもそれが欲しいわけではないと考えています。
「アナリティクス(analytics)」、つまり「分析」という枠組みの中に収まるのではなく、データを見た結果、それによって何か示唆が得られて、次に何をしたらいいのかのアクションが見えてくる…。
そういった、気付きを提供するサービスとしての立ち位置を大事にしたかったんです。
田代:それで、CPOの佐藤伸彦さんがドヤ顔で「Insight(洞察)」の提案を持ってきましたね。「こっちでしょ」って(笑)。
篠田:MGReをリリースしたときから、僕たちは「アプリ『マーケティング』プラットフォームです。」というメッセージを発信しています。
「アプリを作って終わり」「分析をして終わり」ではないよ、という意思がすごく強くあるので、その思いも込められた名前になっています。
新機能「ECコンバージョン計測」について
――Insightには、2023年7月から新たな機能が実装されたそうですね。
(画像)新機能:ECコンバージョンの利用画面サンプルイメージ
篠田:「ECコンバージョン計測機能」ですね。実は、アイディアは以前からありました。
猿渡:一般的に、ダッシュボードの機能には、
- 現状を把握する(いろいろな数値のサマリーを出す)
- ユーザーの情報を詳しく見せる
- 施策の成果を見る
の3通りがあると言われています。
どれにフォーカスするべきかは一概には言えませんが、ECのコンバージョンは【3】に当てはまり、開発初期から入れたいという構想はありました。
ただ、実装するためには扱うべきデータが多く、裏側の仕組みも更新する必要があり、すぐにはリリースに至りませんでした。
今年(2023年)の1月に裏側が整ったため、機能の実装を進められたのです。
――機能の実装までに、どのくらいの時間がかかったのですか?苦労したことがあれば教えてください。
猿渡:3年くらいはかかったと思います。
篠田:過去に、MGReのお客さまに協力してもらい、テストをしてみたことは何度かありました。
機能を使う中で「これは役に立つな」という直感はあったものの、当時はEC側とログを連携する仕組みで試していたこともあり、思いのほか実装が大変で…。
アプリに連携しているEC側の協力が必要な上に、その負担が重かったんですよね。
お客さまのアプリで1ヶ月ほどかけて、一旦は完成したものの、他社にも展開しようとは到底思えなかったです。
田代:そんなに大変だったんですか?
篠田:大変でした…。リテラシーの高い担当者と一緒に綿密なコミュニケーションや技術的な調整を重ねた上で、ようやく動いた仕組みだったので。
それに、EC側に頑張ってもらう必要のある仕組みだと、そもそものハードルが高い。ECプラットフォームによっては、そもそも対応すらしてもらえません。
田代:たしかに、そうですね。
篠田:この経験から、「EC側での対応が発生する前提で仕組みを作ってしまうと、たとえ機能をリリースしても使ってもらえない可能性が高い」と判断しました。
猿渡:ECコンバージョン自体、もともとはEC側で見られる情報なので、そもそもMGReのスコープではないよね、みたいなところもありました。
でも実際にはお客さまからの要望が多いし、この7月からGoogle アナリティクス 4(GA4)に移行したことで、さらにアプリのデータ計測がわからなくなった、というケースが増えたんです。
篠田:そうですね。GA4でアプリとECの成果をきちんと見たいという相談が、この半年すごく増えています。
猿渡:そこで、試行錯誤の結果、アプリ側だけで設定を完結できる方法を見つけて、機能の実装に至ったのです。
これは昔のGoogle アナリティクスのコンバージョン計測の仕組みからヒントを得たもので、「あるポイントを通過した」というコンバージョンポイントの設定をするだけなので、初期設定でつまづきにくく、多くの方に使っていただけると予想しています。
田代:この機能が登場したことで、5年前に描いていたMGReのコンセプトの実現にまた一歩近づきました。
結局、アプリであろうがなかろうが、どの顧客接点においても大事なことは同じだと思っています。
顧客IDを紐づけた行動データを蓄積し、そのデータをもとに顧客理解を深める、そして、それを次の体験に還元する――。
企業にとって重要なことは、顧客理解と体験づくりだと、私たちは考えています。そこに注力できる環境づくりを、MGReとMGRe Insightは目指しているのです。
今後実現したいこと
――これからInsightでどのようなことを実現していきたいですか?
田代:「商品起点」のマーケティングを「顧客起点」に変えていくことですね。
MGReは、1人ひとりに合わせたマーケティングができるサービスを目指しています。
顧客1人ひとりの理解を深める機能はまだ実装されていませんが、顧客をきちんと理解した上で、適切なコミュニケーションを取れるようにしていきたいですね。
できれば、顧客像をわかりやすい形で表現して、コミュニケーションや施策に対する示唆をAIが示し、人が「判断すること」に注力できるようにしていきたいです。
猿渡:技術的な観点で言えば、データを管理する環境を整えたいですね。
MGRe本体とInsightは、それぞれ意図あって別々のインフラで作られています。その2つをつなげるための基盤があまりできていないので、つなぐ部分をしっかりと作っていきたいです。
現状、クーポンを配ったデータなどは容量が多すぎて、Insight側に運べていません。
近々出力できるようになる予定ではあるのですが、まだ少し時間がかかるので、引き続き開発を進めていきたいですね。
田代:あとは、さきほど篠田さんも仰っていたように、運用している人たちに対して示唆を与えるようなプロダクトであってほしいです。
単純に数字が並んでいる、というよりは、その人のインスピレーションに働きかけるようなUIになっているといいなと思いますね。
顧客の感情が絵で見えたり、管理画面にポップアップなどが出てきて使い方を教えてくれたり。プロダクト自体が、アプリの運用担当者を導いていけるような仕様になるといいです。
たとえば、ChatGPTに「何とかのコピーを10個考えて」と書くと、それらしいコピーをリストアップしてくれますよね。「もっとエモーショナルな感じで」と頼めば、変換してくれたりします。
MGReも、ユーザーが今やりたいことに対して、インタラクティブに応えられるようになるといいなと思います。
もっと、人にやさしいプロダクトにしていきたいですね。
――最後に、この記事を読んでいる読者へメッセージをどうぞ!
篠田:昨今は分析ツールの有料化が進んでいる傾向にある気がしています。
Insightは、MGReを導入すると無料でついてくるため、お得と言えるのではないでしょうか。
田代:私は、すごく極端なことを言えば、「分析を無くしたい」と考えています。
篠田さんが仰っていたように、みんな別に分析がしたいわけではない。したいわけではないのに、している。
それっておかしいと思うんです。そもそも、その行為自体が無くなるといいなと思っていて。
MGReが進化することで、分析をしていた時間を、お客さんのことを考える時間に当ててもらいたいなと思います。かといって、じゃあいったい何をすればいいのかはわからないのですが…。
篠田:それは僕たちが順序立てて考えるので大丈夫です(笑)。「これは後だな」とか。
田代:すぐ飛ばす!(笑)まあいいんです。ゴールがあって、一歩ずつ進めていけたら。
猿渡:今のお話で「分析せずにソリューションがわかる」っていうのは、本当におっしゃる通りだと思います。
ただ、実際には「分析してもソリューションがわからない」場合もあって。だから、篠田さんが言っていた「先の話だな」っていうのもわかります。
このようなことに葛藤しつつも、一つずつ機能を追加していけるといいなと思っています。一歩ずつ成長していくので、楽しみにしていてください。
田代:アプリ担当者のほとんどは、分析がメイン業務ではありません。そういう人にとってはまだまだ難しい、というのが正直なところですよね。
分析スキル自体、本来は上がらなくてもいいと思いますし。本当なら、テクノロジーが補っていくべきものではないでしょうか。
「世界を変えよう」とまでは言わないけれど、その一助にはなりたいですよね。
猿渡:話がどんどん大きくなっているけど、大丈夫ですか。
田代:ごめんなさい(笑)。
猿渡:こういった感じで、社長が広げた大きな風呂敷を現場が苦労して畳んでいることも知っていただけたら(笑)。
対談メンバー紹介
田代健太郎(たしろ けんたろう)
メグリ株式会社 代表取締役 CEO
新卒でSIERに入社し、R&D部門に従事。2003年株式会社メンバーズ入社。大企業のWebサイト構築にエンジニア、プロジェクトマネージャーとして従事。2007年メグリ株式会社を創業。企業のWebサイトやアプリの受託開発実績を重ね、2020年 SaaS型アプリマーケティングプラットフォーム「MGRe (メグリ)」のサービス提供を開始。
■Insightの推し機能:ダッシュボード
田代コメント:「一目で運用状況を確認できて、それぞれの課題に合わせて深堀りしやすい設計になっています。この機能を使って、定期的にアプリのヘルスチェックをして、次の施策に生かしてもらいたいです。」
メグリ株式会社 プロダクト部 データエンジニア
新卒で大手SIに入社し、ERPパッケージの開発を担当。SIer、フリーランスでエンジニアやPM業務を経験後、2017年にメグリ株式会社に入社。現在はデータエンジニアとして、アプリの分析機能開発を実施。
■Insightの推し機能:ECコンバージョン機能
猿渡コメント:「断トツでECコンバージョン(が推し)です。使い心地が良いし、もし自分がアプリ運用をしていたとしたら、この機能を一番使う気がします。」
メグリ株式会社 プロダクト部 プランニングチーム プランナー
IT系企業で新規事業の立ち上げに携わり、2014年、メグリ株式会社に入社。入社当初はWebサイト・アプリの分析および企画を中心に、サービスの新規営業にも従事。2020年よりプロダクト開発チームでプランニング担当として「MGRe」の新機能の企画や改善等の業務を担当。
■Insightの推し機能:ダッシュボード
篠田コメント:「管理画面を開いて、最初に出てくるこの画面に、誰もが知るべき数値が詰まっています。開発当初から入れたかったECコンバージョン数もここから見られます。」