「LTV(顧客生涯価値)」は、顧客が企業にもたらした経済的価値を知ることのできる指標であり、どの企業にとっても無視できないKPIと言えます。
その一方で、長期的な指標であるため、半年や1年では結果が分かりません。現場で奮闘する担当者によっては、目の前の目標をつい優先してしまう場合もあります。
そのため、指標としてのLTVに意味を見いだせなかったり、「普段使わないため計算方法がよくわからない」という方もいることでしょう。
この記事では、そのような方の一助となるべく、LTVの意味や計算方法、向上方法について紹介していきます。
<こんな方におすすめ>
- LTVの計算方法を知りたい
- なぜLTVが重要なのか知りたい
- どのような施策を行えばいいか、イメージが分からない
LTVとは
LTV(Lifetime Value)は、顧客の経済的価値を示す指標で、ある顧客が企業との取引をするすべての期間において、どのくらいの利益をもたらしたのかを表します。
日本語では「顧客生涯価値」とも呼ばれます。具体的な計算方法は後述します。
重要視される理由
LTVを重視するべき理由は、主に3つあります。
【1】顧客の経済的価値が見えるようになる
顧客それぞれの経済的価値を可視化することによって、どの顧客がビジネスにとって重要なのかを把握できるようになります。
LTVの高い顧客に対するコミュニケーションや還元を優先的に行うことで、売上の拡大やロイヤルカスタマー醸成につながります。
【2】コミュニケーションの最適化
LTVの高い顧客に対してより高いマーケティングコストを投下してみたり、LTVが低い顧客に対してリピート促進を行う、といったコミュニケーションの最適化を行えます。
マーケティング資源を適切に活用できるようになるため、より高い費用対効果を狙えます。
【3】リピート購買やクロスセルの促進
【2】で紹介したコミュニケーション最適化の結果、リピート購買や追加購入といった購買行動を促進でき、結果的に売上アップが期待できます。
新規顧客の割合が高かったり、顧客の定着率を上げたい企業の場合には、LTVを把握して施策に生かすことで売上拡大につながるかもしれません。
なお、リピート促進をする方法については以下の記事で詳しく紹介しているので、合わせて参考にしてみてください。
計算方法
LTVの計算方法には、いくつかの方法があります。
ここでは、目的別に使える2つのパターンを紹介します。
計算方法(1):ある顧客のLTVを知りたい場合
ある顧客がどのくらいの経済的価値をもたらしたのかを計算したい場合、計算式は下記の通りになります。
<計算式>
たとえば、ある顧客が毎月1万円程度の買い物を6年間継続したとします。
そして、その商品の収益率が40%であるとすると、計算は下記のようになります。
計算方法(2):自社の平均LTVを知りたい場合
自社の平均的なLTVを知りたい場合や、見込み顧客のLTVを推計したい場合は、以下の計算方法で算出してみましょう。
<計算式>
たとえば、自社の顧客が1回のお買い物で払う金額の平均が3万円だとします。
購入する頻度が2ヶ月に1回(6回/年)で、継続期間の平均が5年だった場合、以下の計算式になります。
人件費や店舗運営費などのコストを考慮した金額を知りたい場合は、前述の計算式と同様に収益率をかけましょう。
ここでは、収益率が50%の場合の計算をしてみます。
関連指標
CLV(Customer Lifetime Value)
LTVと同義語で、顧客の生涯価値を長期的に捉えた指標です。
CLTV(Customer Lifetime Value」)と表現されることもあります。
MRR(Monthly Recurring Revenue)
毎月継続的に発生する収益の金額を表します。
日本語では「月次経常収益」や「月間継続収益」と訳され、月額課金のクラウドサービスをはじめとした、サブスクリプションのビジネスで使われる指標です。
たとえば、月額3万円のサービスを100人が利用している場合には、以下の計算方法になります。
<計算式>
CAC(Customer Acquisition Cost)
特定の期間内に獲得した新規顧客の1人あたりにかかる費用のことです。日本語では「顧客獲得費用」と訳されます。
例を挙げると、ある企業がプロモーション費用に600万円をかけて、1ヶ月で300人の新規顧客を獲得したとします。
この月間のCACを割り出すとすると、以下の計算になります。
<計算式>
ARPU(Average Revenue Per User)
1ユーザーあたりの平均売上を指しており、MRRと同様にサブスクリプションのビジネスでKPIとされることの多い指標です。
計算方法はシンプルで、たとえばあるサービスにユーザーが500人おり、売上が5,000万円の場合には以下の計算になります。
<計算式>
ただし、サービスの課金形態によって計算方法は変わるため、自社に合った計算方法を確認することが大切です。
リテンション率(Retention Rate)
「リテンションレート」「継続率」「定着率」とも呼ばれる指標で、特定の期間内に獲得した新規顧客がサービスを継続した割合を指します。
たとえば、1ヶ月のキャンペーンで獲得した新規顧客が、その後の1ヶ月でどのくらい定着したのかを図りたいとします。
獲得できた新規顧客が5,000人だとして、その後の1ヶ月で継続していた顧客が500人の場合は、以下の計算方法になります。
<計算式>
なお、リテンションレートの対義語はチャーンレート(離脱率)と言い、既存顧客が特定の期間でどのくらい解約したのかを示します。
顧客の離脱に課題をお持ちの方は、以下の記事にて対策方法を紹介しているので参考にしてみてください。
LTVを高める方法とは?
LTVを高めるためには、以下の2つの軸での取り組みが求められます。
- 購買金額アップにつながる施策
- 長期的な関係を築くための施策
極論を言えば、購買金額が上がり、その高い購買額を継続してもらえれば、LTVはどんどん上がります。
この2つの観点から、おすすめしたいLTV向上施策を紹介します。
【1】購買金額アップにつながる施策
購買金額をアップさせるためには、「顧客が購入する金額(顧客単価)を高めること」と「購買の頻度を高めること」の2点が重要になります。それぞれ見ていきましょう。
(1)顧客単価アップ
まず顧客単価についてですが、顧客の購入金額を高めるためには、「アップセル」と「クロスセル」の考え方が重要になります。
- アップセル:今よりもグレードの高い商品を購入してもらうこと
- クロスセル:購入商品と親和性の高い関連商品などをあわせ買いしてもらうこと
つまり、商品ごとの購買金額を高めるのがアップセルで、会計ごとの購買金額を高めるのがクロスセルです。
サブスクリプション型のサービスにおいては、購買頻度を高めることができないケースが多いため、アップセルやクロスセルができるかどうかで利益向上できるかどうかが変わります。
(2)購買頻度アップ
売上を上げるためには、購買頻度を高めることも重要です。たとえば、月に1回来店の顧客が月に2回来店するようになれば、LTVは単純に2倍になります。
「年2回のセール時期にしか買わない顧客に、なんとかあと1回買ってもらえるようにしたい…。」
弊社が支援する小売企業の方には、このようなお悩みをお持ちの方も多くいらっしゃいます。
施策の例を挙げると、アパレルブランドのスタッフがコーデ術を有益なコンテンツとして発信することで、顧客は買い物の予定が無くても、ブランドの発信チャネルを覗きに行くきっかけになります。
すると、購入するつもりが無かった商品を魅力的に感じ、購買する可能性が高まります。
このように、顧客にとって有益な情報発信をすることで、ブランドを思い出してもらったり商品を知ってもらうきっかけづくりができ、結果的にLTVを最大化できるのです。
コーデコンテンツについては、弊社のアプリプラットフォームでも連携をしているツールがあります。詳しくは下記の無料資料をダウンロードしてみてくださいね。
【2】長期的な関係を築くための施策
顧客の継続期間が長くなればなるほど、購買回数は増え、LTVは向上します。
長期的な関係を築くためには、以下の3つの取り組みが効果的です。
- ポイント活用
- 会員ランク
- 日常的なコミュニケーション
1. ポイント活用
顧客との関係維持におすすめな施策として、ポイント活用があります。
ポイント付与のメリットは、次回利用できるポイントが貯まることによって、再びその企業およびブランドで購買をする動機づくりになることです。
「貯まった分のポイントを消化したい」という顧客心理が働き、割引サービスを行うよりもリテンション率が高まる可能性があります。
反対に、クーポンのように1回利用すると無くなる使い切りの還元方法だと、「購買のきっかけづくり」づくりはできても、「購買を続ける理由づけ」はできません。
単純な割引施策は利益が下がるだけでなく、ポイントと比べると顧客の定着率が低くなりやすいリスクがあるため、慎重に行う必要があります。
ここで、上記を体現した事例があるので紹介します。
鳥取を中心に6店舗を持つ人気セレクトショップ「BINGOYA(びんごや)」は、アプリを通してポイントシステムを活用することで利益アップに成功しています。
ポイント活用に力を入れる以前は、割引キャンペーンが主な販促方法だったところ、ポイント還元にシフトチェンジし、利益率が上がったそうです。
詳しくは下記の弊社インタビュー記事に紹介されているので、気になる方は参考にしてみてください。
2. 会員ランク
クレジットカードでよくある「ゴールドカード」「ブラックカード」のように、会員ランクをステータスとして魅力的に感じる生活者は一定数います。
ランクアップを目指して購買回数や金額を増やしたり、獲得できた会員ランクを維持するために継続的な購買や年会費の支払いを行うなど、会員ランク制度はLTVをもたらす施策の一つになります。
また、先ほどお伝えした「アップセル」の観点でも、会員ランクに応じて年会費やサービス利用料を設定して利益アップにつなげることも可能です。
3. 日常的なコミュニケーション
3つ目は、顧客と日常的な接点を持っておくことです。
具体的には、以下のような施策を通して、顧客と日常的なつながりを持つことが大切です。
- SNS(LINE含む)
- Webコンテンツ
- ライブコマース
- アプリ
SNSはInstagram、Twitter、Facebook、LINEなど、利用者の多いチャネルで情報発信をすることで、顧客の目に触れて思い出してもらうきっかけになります。
Webコンテンツやライブコマースも同じ理由で、有益なコンテンツを供給することで顧客が頻繁に見てくれるようになり、ロイヤルティ向上につながります。
また、アプリは顧客がモバイル端末からすぐにアクセスしやすく気軽に使えることで日常的な接点づくりになります。
アプリ内だけのオリジナルコンテンツはもちろん、SNSやWebコンテンツをアプリから閲覧できれば、より顧客との関係づくりを強化できます。
以下の記事では、アプリを活用した顧客体験向上について解説しています。顧客との接点づくりに課題を持っている方はあわせて参考にしてみてください。
LTVを見る上での注意点
最後に、LTVを評価する上での注意点を3点お伝えします。
【1】ユーザーとデータを紐づける
LTVは顧客1人ひとりのデータを追って集計する必要があるため、扱うデータをユーザーが紐づいていないと正確な計算ができなくなってしまいます。
会員証や顧客管理システムを活用して、購買時に顧客認識を行える環境づくりをしましょう。
代表的な顧客管理ツールである「CRM」については、下記の記事で紹介しています。
【2】セグメンテーションを行う
LTVは、顧客や地域の特性によって異なる場合があります。
たとえば、同じアパレル店の顧客だとしても、メンズ向け商品を購入する顧客とレディース向け商品を購入する顧客では、性別や趣味趣向に違いが出てくる可能性が高いです。
顧客の特性が違えば、生活リズムや購買傾向にも差が生まれます。
そのため、顧客の属性や行動によるセグメント分けをして、LTVを個別に評価することでより効果的なマーケティング戦略につなげられます。
加えて、顧客に合わせて対応を最適化することで顧客満足度が高まり、購買金額や継続購入を促せる可能性もあります。
セグメントについての詳細は、以下の記事で解説しています。
【3】顧客や市場の変化に影響を受ける可能性
消費ニーズは市場や時代の移り変わりとともに変化しており、LTVの評価方法やKPIは変わっていく可能性があります。
たとえば、同じお店でも市場や顧客の変化によって下記のように購買傾向が変わることはあり得る話です。
- 顧客の年齢層が変わり、購入頻度は下がったものの1回の顧客単価は上がった
- 高単価商品の購買数は下がった反面、低単価商品の購入頻度は上がった
今この時代に需要の高い商品やサービスは何かを常に考慮し、顧客や市場の変化に柔軟に応えていくことが大切です。
まとめ
LTVは、ほとんどの企業にとって重要な指標である一方で、計算方法はビジネス形態によって変わります。
そして、常に正確なデータを捉え、顧客と向き合いながら各施策を進めていくことが大切です。
自社のサービス内容を踏まえた上で適切な計算方法を見つけ、定期的な結果の確認と見直しを行いましょう。
弊社の提供するアプリプラットフォーム「MGRe(メグリ)」では、今回ご紹介したLTV向上施策である、ポイントシステムや会員ランクをアプリで活用できます。
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