デジタル技術の発展や世界的な感染症拡大をきっかけに、新たな消費のあり方が増えた今、マーケティング施策は実に多様化しています。
街中を歩くと「広告募集中」とだけ書かれた真っ白な街頭看板が増え、テレビCMが中心だった企業はYouTube広告やWeb広告に軸足を変えていたりもします。
以前は一般的であった“マス向け”のマーケティング手法よりも、消費者一人ひとりの需要に合ったアプローチをする、という選択をする企業が増えてきているのです。
今回は、顧客それぞれのニーズに応えるマーケティング手法である「One to Oneマーケティング」が今必要とされる理由と、具体的なやり方や役立つツールを紹介します。
<こんな方におすすめ>
- One to Oneマーケティングを理解したい方
- 自社商品/サービスのリピーターを増やしたい方
- ブランドのファンを増やしたい方
One to Oneマーケティングとは
One to Oneマーケティング(ワン・トゥ・ワン・マーケティング)とは、顧客一人ひとりのニーズに合わせ最適なアクションを行うことで、購買やファン化に繋げるマーケティング手法のことです。
具体的には、顧客の行動や購買履歴、自社とのコミュニケーション内容をもとにその顧客が何を欲しているのか分析します。そして、効果的だと思われるアプローチを行い、顧客との関係値向上や自社の利益アップに繋げるのです。
なぜ必要なのか
では、なぜOne to Oneマーケティングが今求められるのでしょうか。その理由には大きく分けて2点あります。
- テクノロジーが発達したため
- 商品やサービス内容だけでは差別化が難しいため
それぞれ詳しくお話していきます。
テクノロジーが発達したため
ひと昔前、Web技術がまだ無かった頃は顧客一人ひとりを知りアプローチできる手段が少なく、One to Oneのマーケティング手法をデジタルで体系化することに難しさがありました。
ですが今はテクノロジーの発達により、Cookie※などを用いて顧客一人ひとりを見分けられるような技術が広く利用されるようになっています。
オンラインでも個々に合わせたコミュニケーションをとりやすくなったことで、消費者も自分に合った情報提供をされることに慣れてきています。
つまり、コミュニケーションの個別化はマーケティングにおける新たなベーシックとも言えます。
※Cookie(クッキー):ユーザーが訪れたWebサイト経由でスマホ及びPCブラウザに保存される情報のことで、ログイン状態の維持や商品カート情報の保存ができるなどのメリットがある。
商品やサービス内容だけでは差別化が難しいため
開発技術が発展し、商品のクオリティに大差をつけることが難しくなっている今、商品内容とは違う点で差別化を図る必要が出てきました。
そこで注目されているのが顧客体験(CX)を高めることです。
顧客それぞれに最適なコミュニケーションを取ることで、リピート促進や関係値向上を狙うのです。
総合マーケティング支援を行なうネオマーケティングが実施した調査結果によると、顧客がオンラインでの買い物で経験したことがあるものの中で最も多かった回答は、
「商品自体の質は可もなく不可も感じないがそのブランドが好きで商品を購入したことがある」(19.3%)
というもので、商品の品質よりもブランドへの愛着により購入に至った経験がある消費者が多いようです。
2つ目に多かったのは、
「ブランドが発信するコンテンツに興味をもったことで、商品を購入したことがある」(17.7%)
つまり、商品自体の内容というよりは、そのブランドがどのような世界観や哲学を持っているのか、どのような発信をしているのかが購買のきっかけになっているということです。
■出典:株式会社ネオマーケティング「『D2C』に関する生活者の購買行動やブランドへの意識を徹底調査!生活者目線で見たD2C実態調査」(https://neo-m.jp/investigation/2581/)
もう品質だけで顧客の購買意欲を掻き立てることは難しくなってきており、それよりもブランドとしての情報発信や顧客とのコミュニケーションを積極的に取ることが重要になってきている、ということがこの調査結果からも浮き彫りになっていると言えます。
オンラインに限った話ではありませんが、顧客を呼び込むためには、それぞれに合ったコミュニケーションを取り、ブランド自体を好きになってもらうことが重要です。
そのためにも、一人ひとりのニーズに合わせるOne to Oneマーケティングの考え方が大切になってくるのです。
One to Oneマーケティングを行う前に知るべき3つのこと
One to Oneマーケティングのやり方について触れる前に、前提として知っておきたいことが3点あるので先にお伝えします。
タイミングが重要
One to Oneマーケティングを行う際には、文脈が重要です。
文脈とはどういうことかというと、その顧客にとって一番いいタイミングで、最適なコンテンツを届けられるかどうか、です。
顧客が見てくれる確率が高い時間帯を選んだり、その顧客のこれまでの行動履歴をもとにコンテンツを選定できる仕組みがあると良いでしょう。
コンテンツが膨大に必要
One to Oneマーケティングとは、文字通り「個別対応」のマーケティング手法です。
例えばメルマガやアプリなどで顧客一人ひとりの好みに合ったコンテンツ配信をすることもOne to Oneマーケティングになりますが、そのためには膨大なバリエーションが必要となります。
出来るだけ多くの顧客の多様なニーズに応えられるようにコンテンツを幅広く作ることも、このマーケティング手法を実践する上では大切です。
必ずしも1対1の粒度である必要はない
マーケティング手法がこれまでの“マス向け”から“個人向け”の発信に移行してきているお話はしましたが、それほど細分化する必要がないかもしれない、という観点も実はあります。
そもそも、大衆向けからいきなり個人宛てに発信を切り替える、というのも極端な話ではあります。その間の“クラスター単位”での細分化で十分な場合も大いにあるのです。
例えば、関西エリアに新店オープンをする場合、東日本に住む顧客にとっては特に必要のない情報かもしれません。その場合には、クラスター単位で西日本に住む人物にお知らせを送るのが良さそうです。
また、同じブランドや企業を好んでいたとしても、顧客それぞれで好みは微妙に違っていたりします。アパレルを例に挙げると、カジュアル系のアイテムをよく選ぶ顧客もいれば、フェミニン系のアイテムを好む顧客もいたりします。
この場合には購入アイテムの類似商品が発売された時に、その商品を好みそうな顧客に絞り込み情報配信すると効果的でしょう。
このように、必ずしも1人1人に個別対応するだけがOne to Oneマーケティングの実現方法ではありません。
目的はあくまで“それぞれの顧客に合ったコミュニケーションをとる”ことだと理解しておくことで、効果的な施策を打ちやすくなるでしょう。
One to Oneマーケティングのやり方
ここからは、One to Oneマーケティングの具体的な取り組み方についてお話していきます。以下の4つはOne to Oneマーケティングを行う上でよく活用される代表的な手法です。
レコメンデーション
“recommend”、つまり日本語で「推薦する」という意味を持つこの手法では、購買履歴をはじめとした顧客情報を分析し、その顧客が興味を持ちそうな商品・サービスをおすすめします。
人が行う「おすすめ提案」はもちろん、顧客データを分析して、アルゴリズムをもとに自動でおすすめ商品を提案するシステムを活用することもあります。このシステムは「レコメンドエンジン」と呼ばれ、Amazonをはじめとした人気の通販サイトの多くに導入されています。
<実施イメージ>
- ハンバーガーショップでハンバーガを購入した顧客に、ドリンクやポテトを提案する
- 店舗を訪れた顧客に新作商品やセール商品を紹介する
- ECサイトでワイヤレスイヤホンを閲覧したユーザーに、他メーカーのワイヤレスイヤホンの商品情報を表示させる
リターゲティング広告
リターゲティング広告とは、1度サイトに訪れたユーザーに離脱後もアプローチできる広告手法のことです。外部サイトに自社の広告を表示させるなど、そのユーザーが再度自社サイトを訪問するように追跡します。
<実施イメージ>
- サイトを訪問したユーザーが閲覧するサイトに自社の広告を表示させる
- 商品ページを閲覧したものの購入に至らなかったユーザーに絞り、そのユーザーが閲覧するサイト上に該当商品の広告を表示させる
- ECサイトの商品を購入したことのあるユーザーに対し、リピート購入を促す広告を表示させる
セグメント配信
セグメント配信では、性別や年齢、居住地をはじめとした顧客の属性で絞り込みをし、その顧客に合わせた情報・コンテンツ発信を行います。
それぞれに親和性の高い情報を送信するため、開封率をアップさせたり、ブロックや解約率の改善が期待できます。
<実施イメージ>
- 過去にコスメ購入実績のある顧客にのみ、化粧品のセール情報をメール配信
- サイトに訪問実績があるが購入に至っていないユーザーに対し、LINEでメッセージ送信
- アプリでお気に入り登録されている商品の入荷や値下げ情報をプッシュ配信
>>セグメントのやり方や注意点については、こちらの記事で解説しています。
DM送付
ひと言にDMといっても、“キャンペーンやイベント情報などを顧客に知らせる紙媒体”と“SNSやチャットアプリで利用できる個人宛てメッセージ機能”、2つの捉え方があるかと思います。
どちらもOne to Oneマーケティングを行う上で役立つツールなので、紙媒体とデジタル媒体を上手く使い分けましょう。
SNSやチャットなどデジタルで送付できるDMはコストカットができるメリットがありますし、手紙やはがきは必ずポストに入り手元に届くため、自社の存在を認知させやすかったりもします。重要なのは自社の顧客にとって受け取りやすい方法で発信することです。
<実施イメージ>
- 顧客の誕生日付近にバースデーメッセージと期間限定クーポンをアプリのDMで送付
- 問い合わせへの回答やお礼をインスタのDMで送付
- 高齢者の顧客に向け、重要なお知らせを手紙で送付
役立つツール
さいごに、One to Oneマーケティングを実現する上で便利なツールを4つ紹介します。
CRM
顧客情報の管理ができるCRMは顧客それぞれの行動や購買記録を残すことができます。顧客ごとの趣味趣向を把握して最適なコミュニケーションを行う上では大いに役立つツールです。
CRMについては以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
MA
MA(マーケティングオートメーション)では、顧客の興味関心レベルをスコア付けでき、属性やスコアに合わせたコンテンツ配信を行えます。
顧客に合わせた配信ができるので、コミュニケーションの個別化をしつつ、自動で効率的に見込み顧客の対応をしたい方にもおすすめです。
Web接客ツール
Webサイト上にチャットを表示させて個別接客のできるWeb接客ツールは、顧客にとって都合の良いタイミングに問い合わせや情報収集ができます。
また、顧客からの相談内容によってはオペレーターに繋げて個別対応するなど、接客が必要な顧客とそうでない顧客に対して柔軟に対応を変えられるのもメリットです。
アプリ
スマホアプリは、プッシュ通知などの機能により、顧客のスマホに直接、リアルタイム性の高いメッセージを送信できます。
顧客のアプリ利用状況をデータとして残せる仕様であれば、その状況を分析してセグメント配信によりその顧客に合うコンテンツ発信ができます。
まとめ
One to Oneマーケティングを実現するためには、まずは自社が発信したい内容がどの程度個別化される必要があるのかを念頭に置き、クラスター単位か、個人単位かを選別しましょう。
その上で、デジタルとアナログを上手く使い分けたレコメンデーションやDM送付を行ったり、リターゲティング広告やセグメント配信で効率的かつ効果的に情報を届けましょう。
また、併せて知っておきたい新しいマーケティングのあり方に「OMO」というものがあります。
今この時代の顧客体験を高めるためには必須の知識なので、小売業に関わらずぜひご覧ください。